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亡くなった家族のiPhoneが開けない。写真やデータを取り出す方法と、その前に必ず知っておくこと

2026年9月2日 · 八八商会 礒 暢秋(元 Apple Store Genius)

修理カウンターで、いちばん切なかったのは、「開けられないiPhone」を前にしたご家族でした。

中には、もう会えない人の写真や、最後のLINE、大切な記録が入っている。でも、パスコードが分からない。パスワードも分からない。——ご遺族が、その小さな画面の前で立ち尽くす姿を、私は何度も見てきました。

元 Apple Store のジーニアス(修理・サポート担当)として、まずいちばん大事なことを、正直にお伝えします。

最初に知っておくべき、つらいけれど大事な事実

iPhoneのパスコードは、Appleでも解除できません。

「専門店なら開けられるのでは」「Appleに頼めば中を見せてくれるのでは」——そう期待されるご家族は多いのですが、これは本当にできないのです。iPhoneの中身は強力に暗号化されていて、パスコードを知っている本人以外は、Appleの技術者であっても開けられない仕組みになっています。これは欠陥ではなく、あなたのプライバシーを守るための設計です。

だから、故人のスマホからデータを取り出せるかどうかは、「端末のパスコードが分かるか」ではなく、「Appleアカウント(Apple ID)にアクセスできるか」で、ほぼ決まります。写真・連絡先・メッセージの多くは、iPhone本体ではなくiCloud(クラウド)側に保存されているからです。

鍵がかかっているのは端末、引き継げるのはクラウドに保存されたデータ、という対比の図
鍵がかかっているのは端末。中身の多くは、その向こうのiCloudにあります。

以下、状況ごとに、できることを整理します。


ケース① Apple IDとパスワードが分かる場合 → 取り出せます

故人が使っていたApple ID(メールアドレス)とそのパスワードが分かるなら、これがいちばん確実です。

  1. パソコンやスマホのブラウザで iCloud.com にアクセスし、そのApple IDでサインインする
  2. 「写真」を開けば、クラウドに保存された写真・動画をダウンロードできます
  3. 連絡先・メモ・カレンダーなども同様に確認・書き出しができます

ただし注意点があります。多くの場合、サインイン時に「本人確認コード」が故人のiPhoneやほかの端末に届く(2ファクタ認証)ため、その端末が手元にあり、ロック画面に出る通知が見られると手続きがスムーズです。パスワードが分からなくても、後述の②③に進める場合があります。

メモや手帳に「ID・パスワード」が残されていないか、まず探してみてください。ご本人が生前に書き残していたケースは、実際に少なくありません。

手帳や封筒が並ぶ机。手がかりが紙に残されていることを示す図
デジタルの問題の答えが、紙に書いてあることはよくあります。

ケース② 「故人アカウント管理連絡先」が設定されている場合 → 正式に引き継げます

Appleには 「故人アカウント管理連絡先(デジタル遺産)」 という、まさにこのための公式のしくみがあります。生前に本人が「自分に何かあったら、この人にデータを渡す」と指定しておく機能です。

もし故人がこれを設定していて、あなたが指定されていれば:

  1. 本人から共有された、または端末内に保存された「アクセスキー」を用意する
  2. Appleの申請ページ digital-legacy.apple.com で、アクセスキーと死亡証明書(死亡診断書など)を提出する
  3. Appleの確認後、故人のアカウントのデータ(写真・ファイルなど)にアクセスできる専用アカウントが発行されます
アクセスキーと死亡証明書をそろえて申請し、審査を経て受け取るまでの流れの図

これが設定されていれば、いちばん正式で、確実な方法です。——そして、これこそが「今、元気なうちにやっておくべきこと」の核心です(この記事の最後で説明します)。


ケース③ IDもパスワードも分からず、事前設定もない場合 → 難しいですが、道はあります

正直にお伝えします。この場合は、簡単ではありません。

Appleは、正当な遺族であっても、裁判所の命令など、法的な手続きを求めることがあります。これはAppleが冷たいのではなく、「本当にご遺族か」「故人の意思はどうだったか」を、勝手な判断で覆さないための線引きです。

できることとしては:

「開かないまま、捨てるしかないのか」と諦める前に、まずは正規の窓口に一度、事情を話してみてください。

やってはいけないこと

  • 何度もパスコードを当てずっぽうで入力しない。一定回数を超えると端末が使用不能になり、状況が悪化します。
  • 「データ復旧」をうたう非正規の業者に、安易に本体を預けない。前述のとおり、正規の方法でも本体のパスコードは解除できません。「開けられます」という業者には、まず疑いを持ってください。


きっかけは、海の上でした

ここからは、仕事の話ではなく、自分の話です。

趣味でカヤックフィッシングをやっています。ある日、沖で釣りをしていたら、風に流されました。漕いでも漕いでも、岸が遠い。「これ、帰れないかもしれない」と、本気で思いました。

霧のかかった静かな海に、一艇だけ浮かぶカヤックとフィッシングロッド。岸は見えない
この日の海。岸は、どちらを向いても見えませんでした。

そのとき頭に浮かんだのは、仕事のことでも、明日の予定でもありませんでした。

「俺、死んだら奥さんに何も伝えてない。どうしよう」

それだけでした。

結局、無事に戻れました。そしてその日のうちに、夫婦でお互いのiPhoneの引き継ぎ設定をオンにしました。カウンターで何百回と説明してきた設定を、自分ではやっていなかったのです。

設定しながら、もうひとつ気づいたこと

我が家は、お互いに見られて困るものが特にありませんでした。だから何も迷わずオンにできました。

でも、そうでない方もいるはずです。

家族にでも、写真は見せたくない。誰にも見せたくない。そういう人がいて、当然だと思います。

それは、わがままではありません。むしろ「自分は引き継がせない」とはっきり示しておくほうが、残された人は迷わずに済みます。何も書いていなければ、家族は「見ていいのか、いけないのか」で悩むことになります。

「開けられなくて困る」と同じくらい、「開けられて困る」も起こり得る。あの日、設定画面を見ながら、そう思いました。


いちばん伝えたいこと ——「開かなくなる前」に、5分でできること

ここまで読んで、こう感じた方も多いはずです。「じゃあ、自分が残す側になったら、家族はもっと困るのでは」と。

その通りです。そして大事なのは、「残す」か「残さない」かを、自分で決めて示しておくことです。どちらを選んでも構いません。決めてあること自体が、残された人を助けます。

その通りです。だからこそ、元気な今、自分のiPhoneで5分だけ、設定してほしいことがあります。

故人アカウント管理連絡先(デジタル遺産)を、今すぐ設定する

これを設定しておくだけで、あなたに何かあったとき、指定した家族が裁判所の手続きなしで、あなたの写真や思い出を受け取れます。

設定の手順(iPhone)

  1. 「設定」→ いちばん上の自分の名前をタップ
  2. 「サインインとセキュリティ」→「故人アカウント管理連絡先」
  3. 家族など、託したい相手を追加する
  4. 発行されるアクセスキーを、その相手に渡しておく(プリントして一緒に保管するのが確実です)

たったこれだけで、あなたの大切な人が、あの「開けられないiPhoneの前で立ち尽くす」経験をせずに済みます。

逆に、「見せたくない」と決めた方は、その希望を紙に残しておいてください。引き継ぎを設定しない、という選択も、立派な意思表示です。

封筒を手渡す場面。大切な人に意思と手がかりを残すことを示す図

それでも「自分でやるのは不安」という方へ

——そういうときのために、八八商会があります。

私は元 Apple Store のジーニアスとして、たくさんのご家族の「困った」を、カウンターで一緒に解いてきました。いまは、スマホやパソコン、写真やアカウントを「残す側」「受け取る側」の両方の準備を、ご家庭に寄り添ってお手伝いしています。年配のご家族には、紙にも残し、何度でも同じことをお伝えします。焦らせません。

八八商会は、法律や医療の判断は一切いたしません。契約・相続・遺言など専門家の領域は、必要に応じて専門家へおつなぎします。私たちは、端末とデータの準備・整理・引き継ぎに限って、お手伝いします。

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